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2005年04月19日
第一話-7-
カチッ…
通路に無機質が木霊する。
またか…と内心で愚痴りながらも、懐からダガーを取り出す。
……シュ!!
直後風切音と共に暗闇から一本の矢が飛び出してきた。
俺はダガーを持った右腕を鞘から抜かないまま、振るう。
振るわれたダガーは俺の目の前まで、迫っていた矢を払い落とす。
木製だったのだろう矢は中ほどで折れ、石作りの床へと落ちた。
「またか…」
溜息をついて振り返ると案の定、ギーガが両手を合わせて頭を下げていた。
「いやすまんすまん。壁に手を着いたら、なんかへこんだ」
見ればギーガの脇の壁に、へこんでいる部分がある。
壁の一部を押すと矢が飛び出すという古典的なトラップに掛かったのだろう。
「まぁいつものことだからいいけどな」
ギーガと組む時は、基本的にギーガが力仕事全般。
俺がトラップの解除や宝箱の開錠など細かいことをすることになっている。
特に相談をしたわけではないが、俺は元々手先が器用だったし
ギーガはまぁ、アレだったので順当な役割分担だろう。
ということで今は、ここに向かっていた時とは逆で、
俺が前でギーガが後ろというポジションで進んでいる。
「しかし暇だな」
「……お前何回トラップ踏んだ?」
「いやそうじゃないって!いや違う。トラップ踏んだのは確かだけどそういう意味じゃなくてだな!」
しどろもどろになっているギーガ放っておき、歩みを進める。
だがギーガの言っていることもわかる。遺跡に入ってからもう5つは階段を下ったはずだった。
しかし遺跡内には、トラップの類がたまにあるだけで、宝箱の一つも
ダンジョンには付き物の魔獣の類にもあっていない。ギーガの暇という感想はそこら辺から出たところだろう。
かくいう俺も拍子抜けしていた。
そりゃモンスターとの遭遇なんて、無いに越したことはないのだが、あれだけ意気込んで出発した手前
ここまで何も起こらないというのは、やっぱり期待はずれだ。
まぁ外から見たときはその規模に驚かされたが、未開のダンジョンなんてこんなものなのかもしれない。
別に遺跡の所々には宝物残しとけなんていう法律があるわけでもない。
「うーむ」
チラリと横目でギーガを見ると、腕を組んで唸りながら歩いていた。そんなことだから初歩的なトラップに
引っかかるんだろう。と、ふとギーガの腰に差された剣が目に留まった。
鞘に収められた剣は無骨な鎧や盾と不釣合いな
細かな彫刻が刻まれ、鍔は透き通るような白銀色をしている。
鞘自体も、鮮やかな青で美しい彫刻が刻まれている。
「どうしたあかゆ?」
俺の視線に気づいたギーガが聞いてくる。何時の間にかギーガに気づかれるほど見入っていたらしい。
「いやその剣な」
「またこの剣のことか」
ギーガはうんざりとした様子で、腰に差した剣を抜く。
その刀身も、やはり透き通るような白銀色で鍔から真っ直ぐ伸びた刀身には傷一つ無い。
この剣のことをギーガに聞いたのは初めてではなかった。ギーガの様な一介の冒険者が
こんな剣を持っていることが驚きというのも勿論あったが
それ以上にその剣には、普通の武器屋に売っているような数打ちの武器とは違う
引き込まれるような存在感があった。
「だから、これはただのフランベルジュだって言ってるだろ…」
ギーガが、少し疲れた様子で言う。
「うーむ…」
俺は答えず唸る。フランベルジュというのは普通の武器屋でも売っている西洋剣だ。
持ち主であるギーガがそう言うのならそうなのだろうが、そもそもフランベルジュの刃って…
「はぁ… こんな剣見ておもしろいもんか?」
溜息をついて鞘に戻す。カチンという鍔音が思考を中断させる。
なぜかギーガは、この剣の話になると機嫌が悪くなる。
しつこく聞かれることが煩わしかったとも考えられるが
ギーガはこの剣自体に対して機嫌を悪くしてる気がする。
だが「その剣俺にくれ」俺にくれというと怒る。いやそれは当たり前か…。
「っと、部屋か?」
ギーガの声に、通路の先を見ると、確かに通路の終点には、重そうな二枚扉が聳え立っていた。
………
扉は周囲の壁と同じ材質の石でできているようだった。不思議な文字にも見える模様が刻まれた石扉は
3mはあり、その表面には鍵穴もなく、何か仕掛けと連動しているようにも見えなかった。
掌に唾を拭きかけ、思い切り押す。
「ぐぐぐぐぐぐぬぬぬぬううぬぐぐ…」
石扉はビクともしない。造りは頑丈なようで開いた途端崩れるということもなさそうだ。
隣で俺が押すのを傍観していた力仕事担当を見る。
扉を見上げていたギーガ、俺の視線に気づくと
俺の意図が読めたらしく小さく息を吐き、指をポキポキと鳴らした。
俺が一歩後ろに下がると、ギーガは石扉の中央に立った。
肩を上下させ体をほぐすと、石扉に両のてのひらを押し付ける。10本の指が歪む。
「…………!!」
………ゴゴゴゴゴゴッ
ギーガの声にならない唸り声が、石扉の開く鈍い音にかき消される。
重い扉が動くと同時に、天井からパラパラと少し砂粒が落ちてきたが
思っていた通り崩れるようなことはないようだ。
「流石力仕事担当だな」
という感想を漏らした俺の前には、肩で息をするギーガと人一人通れるぐらいの隙間の開いた石扉があった。
ギーガの息が整うまで、少し休憩を挟むと俺たちは部屋の中に入った。
部屋の造りは、通路と変わらない石壁だった。広さは部屋というより、広間と言えるほどで天井も高い。
通路もそうだったが、なぜか壁には松明が掛けられている。恐らく松明にも魔術の類がかかっているのだろう。
見渡すと、部屋の奥には一つ石造りの扉があった。
「お!何かあるぞ、あかゆ!」
ギーガが部屋の奥を指差す。
ギーガの指差す方向に目を向けると、そこには2つの無機質な人型の輪郭が見える。
警戒しながらも人型に近づく。近づくにつれ人型の輪郭がハッキリとしてくる。
「鎧…か…?」
確かに、その人型は鎧に見えた。
壁際に佇む二つの人型はまったく同じもので、全身が鉄のような材質でできており
人間と同じように頭、身体、手足で構成されている。
腕の先にも5本の指がついており、その右腕には巨大な剣、左腕には盾を携えている。
しかしそれは鎧と言うには巨大すぎた。
2メートル半はあるだろうその人型は、少なくとも人間が纏えるものではない。
いや、それ以上に人型を覆う装甲にはまったく繋ぎ目がなく、分解できるかすら怪しい。
「あかゆ、これどうするよ?」
「一応はじめてのお宝ではあるが… これ担いで帰るのか?」
想像しただけでげんなりした…。
「じゃあ剣と盾だけパクってくか?」
ギーガが提案する。
「誰がこんな馬鹿でかい剣使うんだよ…」
「………」
「とりあえず、もっと奥を探索してみて、わかりやすい宝があるかを…」
その時、二人の周囲の明度が下がる。
「……?」
「……?」
二人に影が差していた。落ち込んだという比喩ではない。実際に二人の周りが暗くなっている。
二人は同時に明りを遮っている物体を見上げた。
そこには、高々と剣を振り上げる人型の姿があった。
………
「「うわっ!!」」
二人の叫びが重なる。それぞれ左右に飛び退く。
直後、二人のいた空間に、圧倒的な質量が振り下ろされる。振り下ろされたのは巨大な剣だった。
石畳がひしゃげる。
振り下ろされた剣を、持ち上げると人型はあかゆを見た。
無機質な頭部の隙間から覗く闇の向こうには、揺らめくように光る単眼が垣間見れる。
「ゴーレム!!」
ゴーレム。命を持たない土くれに、魔術師が魂を吹き込むことで、自律活動を可能にした人型。
自らの意思を持たない人型は、ただ自らに課せられた命令を従順にこなす。
恐らくこの人型に吹き込まれた命令は…
「この遺跡のガーディアンか!」
ガーディアンは、もう帰ってくることのない主の命により、侵入者を排除するため、剣を掲げる。
懐のダガーを鞘を残して抜き取る。薄暗い遺跡に白銀が煌く。
だが、分厚そうな装甲に覆われたガーディアンが相手では、西洋剣のギーガはまだしも
短剣であるあかゆは、明らかに不利だった。
立ち塞がるガーディンの背後に目をやる。
思ったとおり、もう一体のガーディアンがギーガの前に立ち塞がっている。
「ちっ…」
舌打ちが漏れる。ギーガが一体を倒すまで時間を稼ぐか…?
いや…、一人で倒す方が確実だ。
最初の一撃を見た限り、その巨体のせいか、剣を振るった直後に大きな隙ができる。
狙うのならそこだ。
ガーディアンが、振り上げた剣を横薙ぎに振るう。
あかゆは身を低くする。
………ゴゥン!!
頭上を通り過ぎる、圧倒的な質量と空気を引き裂くような轟音。
身を屈めた状態のまま、ダガーを逆手に持ち直し、ガーディアンを見る。
「っ!!」
あかゆの目に飛び込んできたのは、横薙ぎの剣を躱されバランスを崩したガーディアンの姿ではなく
振るった右腕をそのままに、前方に左腕の盾を構えてたガーディアンの姿だった。
ガーディアンは盾を構えたまま、あかゆに向かって正面から突進してくる。
「ちっ!!」
咄嗟にバックステップで身を引く。
しかし、勢いに乗ったガーディアンの突進をやり過ごすには、咄嗟のバックステップでは飛距離が足りない。
……ドンッ!
「ふぐっ…」
正面からガーディンの体当たりを受ける。全身の骨をバラバラにされたような衝撃が走る。
直後に浮遊感。突き出されたガーディアンの盾は、あかゆを遥か後方まで吹き飛ばす。
……ガンッ!
「げふっ」
背後の石壁にぶつかる。口の中に微かな鉄の味が混じる。
身体が前のめりに倒れる。同時にパラパラと砂粒が落ちてきた。
身体をかなり強くぶつけたことが、一部崩れた石壁の様子からわかった。
肩膝をついて体を起こすと、全身に痛みが走った。
歯を食いしばり立ち上がりながらも、身体の状態を確認する。
痛みは残るが、骨が砕けていることはなさそうだ。直前のバックステップが衝撃を和らげてくれたのだろう。
周囲を確認すると、自分がかなり遠くまで吹き飛ばされたことに気づく。
あかゆの背後には、入ってきた扉より一回り小さな扉がある。
ガーディアンを見る。ガーディアンはゆっくりと、こちらに向かって歩いてくる。
しくじった。確かに動きは鈍いが、それを補うテクニックがある。ただのゴーレムと思って侮っていた。
口に溜まった血痰を吐き出し、身を低くして構えを取る。
握ったダガーを見る。やはり斬撃では分が悪いだろう。
ガーディアンはもう目と鼻の先まできている
こういう装甲の塊みたいな相手には
渾身の刺突か…
ガーディアンが剣を振り上げる。
装甲を砕く打撃だ!
ガーディアンが剣を振り上げたと同時に、下半身に力を込め、思い切り地面を蹴る。
そしてガーディアンの振り上げた剣より高く跳ぶ。
足元にガーディアンの頭部。それを足蹴に飛び越えると、ガーディアンの背後に回りこみ
地面へと降り立つ前に、その無防備な後頭部へ
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
回し蹴りを叩き込む!
ガンという衝撃音と足が痺れるような感覚。人型の巨体が揺らぐ。
石畳へと着地したあかゆは、間を空けずにダメ押しの体当たりを放つ。
ぶつかった肩に確かな手ごたえを感じる。
バランスを失ったガーディアンは仰向けに倒れ、あかゆが叩きつけられた石壁に頭から突っ込んだ。
石壁を崩す大きな音が響き、砂煙が舞った。
右腕にダガーを構えたまま、崩れた石壁に近づく。
すぐに反撃してくる様子はない。
石壁に突っ込んだガーディアンの巨体は、石造りの壁を貫通し
崩れた壁の穴からは隣の部屋の様子が見える。
石壁に身体の半分を突っ込ませたガーディアンは、身じろぎ一つしない。
腹部を蹴る。反応はない。
「ふぅ…」
小さな息を吐く。
…バコンッ!!
「!!!」
その時、背後から硬いものと硬いものがぶつかる音が響く。
そうだ。まだ終わりじゃない!
「そうだ、まだギーガが戦って!」
振り返る。部屋の奥に目を凝らすと、あかゆとはちょうど反対方向の壁際で
膝をつくギーガと、その目の前に立つ人型の姿が目に入った。
ギーガは明らかに疲弊していた。
ガーディアンは、巨大な剣を振りかぶり
「ギー…」
……ガシッ!!
「!!」
ギーガを名を呼ぼうとしたその時、足首に何かが絡まった。あかゆは足元を見る。
「こいつ!まだ動くのか!」
あかゆの足首に絡まる、いや足首を掴んでいるのは、沈黙したはずの巨人の無機質な左腕だった。
手の持ったダガーで巨人の左腕を切りつける。
しかし鋭いダガーの一撃は、その装甲に傷一つつけることはできない。
ガーディアンは膝をつき中腰の体勢のまま
あかゆを石壁に開いた穴に目掛けて投げ飛ばす。
「うわっ!!」
壁に開いた穴を通り抜け、隣の部屋へと投げ飛ばされる。重力が反転する。
しかし体勢を整えていなかったガーディアンも、無造作に投げ飛ばしたのだろう。
あかゆは空中ですぐに失速し、どうにか地面に叩きつけられずに着地することができた。
戦闘態勢を取りながら、部屋の様子を観察する。
造りは他の部屋とは変わらない。広さも隣の部屋より少し小さいぐらいで、心配だったガーディアンも
この部屋には配置されていないようだ。
視線をガーディアンへと戻す。
崩れた壁の向こうで、ガーディアンは剣を杖に、ゆっくりと立ち上がる。
体を起こしていく際、ガーディアンの身体が崩れた壁にぶつかり、壁からミシミシと音がしている。
ガーディアンが完全に身を起こし、瓦礫を跨いで部屋に足を踏み入れた時、それは起こった。
……ガラガラガラッ!!
ガーディアンの背後の、崩れた壁を中心に付近の天井が崩れる。
天井から降り注ぐ瓦礫は隣の部屋、ギーガがもう一体のガーディアンと戦っている部屋との
接点を塞いでいく。
「ギーガ!!」
…………
崩壊の音が止んだ時、ガーディアンの背後の瓦礫は、隣の部屋へと続く道を完全に覆っていた。
「………」
唇を噛む。もうこれでギーガからの加勢も、ギーガへの加勢も不可能になった。
あかゆが目の前の一体を。ギーガがもう一体を一人で倒すしか道はない。
立ち上がったガーディアンは、あかゆに向かってくる様子はないが、慎重にこちらの様子を眺めている。
ガーディアンはまったくの無傷だった。細かな傷もついていないガーディアンの装甲を見ると
まるでガーディアンが、今、正に起動した直後のような錯覚すら覚える。
こんな相手どうやって倒す?
さっきの打撃で倒せなかったということは、残る手立ては
さっき以上、パワーと衝撃で砕くか、一か八かで、ダガーの渾身の刺突を決めるしかない。
前者は難しいだろう。ただ石壁に叩きつけるだけでは、あの装甲を砕くことはできないのだ。
この遺跡の中で、さっきの打撃以上の衝撃を加えることは、ほぼ不可能だ。
と、いうことは…
「………」
ダガーを握る手に力を込める。とはいっても、あの頑丈な装甲にダガーが通用するのかも疑問だ。
「けど、それしか、手はないよな…」
呟き、身を低くする。一気にガーディアンまで駆け抜けるためだ。
作戦は同じ。ガーディアンの目前まで駆け抜け、ガーディアンが剣を振りかぶったところで跳躍。
ガーディアンをそのまま飛び越え背後へと回り込み、首筋に渾身の刺突を突き立てる。
頭部が弱点という保証はないが、人型であるなら中枢回路が頭部にある可能性は限りなく高い。
要は相手を動けなくすればいいのだ。破壊する必要はない。
石畳を蹴り、駆ける。
狭い室内のため、すぐにガーディアンの目の前まで辿りつく。
あとはガーディアンが剣を振りかぶったら……。
剣を持つガーディアンの右腕が動く。石床を踏む足元に力を入れる。そしてガーディアンは…。
右腕を後方に引いた。
「なっ!」
ガーディアンの予想外の動きに身体が硬直する。
ガーディアンはそのまま後方に引いた右腕を、渾身の力を込めて突き出す!
跳躍のための力を、回避行動に回して、右に飛ぶ。
ガーディアンは突き出した剣をすぐに後方へ戻すと、間を空けずに突き出す!
「くっ!」
今度は左方向に跳ぶ。脇腹に冷たいものが掠める。ちょうど避けた先には左腕。
「このぉ!」
苦し紛れに左腕にしがみつき、逆手に持ったダガーを、渾身の力を込めて突き立てる!
……ガキィッ!!
金属と金属がぶつかる耳障りな音が室内に響く。ダガーの刃はガーディアンの腕に……。
……傷一つつけていなかった。
ガーディアンの腕が大きく左に払われ、あかゆの身体が横薙ぎに吹き飛ばされる。
空中でどうにか体勢を立て直し、着地する。
「今日は…、よく吹き飛ばされる日だな…」
突きだった。ガーディアンは、こちらの戦闘方法に合わせて、攻撃を隙の多い斬撃から
隙の小さい突きへと切り替えてきた。
「ゴーレムのクセに本当によく考えるもんだ…」
それだけではない。やはりダガーでは傷一つ付けられなかった。
確かに苦し紛れだったとは言え、あかゆは渾身の力を込めていた。
左腕が特別硬いということはないだろうから、恐らくガーディアンの全身も同じ材質のものだろう。
幾ら相手の攻撃を躱す事ができても
こちらの攻撃がまったく通用しないのでは、いつかは捕まってしまう。
戦況は絶望的だった。
傷一つついていない左腕を思い出す…。
……
「待て…、左腕…?」
唐突に違和感。なぜ俺は左腕にダガーを突き立てることができた?
簡単だ。左に避けた時ちょうど目に入ったからだ。
違う。そうではない。ガーディアンはそう簡単に攻撃できるものだったか?
ガーディアンの左腕は何かに守られていなかったか?
ガーディアンの左腕には何かが付いて…。
「はっ!」
違和感の正体に気づき、顔を上げる。そしてガーディアンの周囲を見る。
そしてそれはあった。
ガーディアンの背後、崩れた瓦礫の脇に落ちている。
「………」
頭に電撃が走るような感覚。言い換えれば閃き。
あかゆの脳内に、ガーディアンを倒す過程が一つ一つ映っては消えていく。
『こんな相手どうやって倒す?』
石壁に正面から激突しても無傷だったガーディアンを見て、俺が自分に問うた言葉。
それは渾身の刺突と…
知らず口元に笑みが浮かぶ。そうだな…。何もできずにやられるなんて
「俺のプライドが許さない!」
ガーディアンを見る。ガーディアンは動いてない。その姿はこちらの出方を待っているように見える。
好都合だ。お前はそこに突っ立っていろ。
ガーディアンに向かって駆ける。いや正確には、ガーディアンの斜め後ろ。
崩れた瓦礫の山に向かって走る。
狭い室内であるため、すぐに辿りつく。
目的の場所に辿り着いたあかゆは、落ちているものの位置を確認すると
ガーディアンに向き直る。
ガーディアンはゆっくりとした足取りであかゆに近づき、そしてあかゆの前で止まった。
あかゆはそのまま古流武道の構えを取る。
ガーディアンは剣を持った右腕を、後方に引く。
そしてあかゆに向けて、剣を突き出す!
「………」
あかゆは迫る剣を見ない。剣を握る右腕を睨む。
上半身を捻る。あかゆの頬を、巨大な剣が切り裂く。しかしそれだけだ。
「そこだ!」
あかゆは手に持ったダガーを投げ捨てる。同時にあかゆは両手を突き出す。
剣に突き出すのではない。その先の右腕に突き出す。
…ガシッ!
あかゆの両の腕が、突き出された右腕をガッシリと掴んだ。
右腕を掴んだまま、背後を向く。掴んだ右腕を自分の右肩に乗せるように持っていく。
そして、抱えあげた右腕を掴む両の腕に渾身の力を込める。
「うおりゃぁぁぁぁあぁぁ!」
ガーディアンの身体が宙に浮く。両の腕に力を込める。
それは古くアマツに伝わる古流武道『柔道』の技。背負い投げ。
そのまま投げようとすれば、持ち上がらなかっただろう巨体を、あかゆはガーディアンの突きの力を
利用して、通常持ち上がるはずのない重量を持ち上げた。
ガーディアンがあかゆの真上まで持ち上がる。
「まだだ!」
このまま床や石壁に叩きつけたとしても、ガーディアンの硬い装甲を砕くことはできない。
石壁に叩きつけて砕けないのならどうすればいいのか?
答えは単純だ。
石壁より硬い物質に叩きつければいい。
あかゆは、床のある一点に照準を合わせる。
崩れた瓦礫のすぐ近くの床。そこには、壁が崩れた時にはずれたのだろう
石壁より遥かに硬く、ガーディアンの身体のどの部分より硬いだろう
ガーディアンの盾があった
「砕けろぉぉぉぉぉぉ!!」
腹の底から声を出す。腹の底から渾身の力を捻り出す。
ガーディアンの頭部を、盾目掛けて、叩き落とす!!
……ゴォォォォォォン!!
広大な遺跡の全体に届くような、大きな音が部屋を揺るがす。
部屋全体を砂煙が覆う。
…………
………
……
…
「いっつぅ…」
あかゆの両の腕に激痛が走った。相手の力を利用したといっても
やはり、自分の何倍もの体重を持ち上げるのは無理があったのだろう。
視界が戻ったあかゆは、ガーディアンを見た。
叩きつけられたガーディアンの頭部はグシャグシャに潰れ
内部から細かい歯車のような物が露出している。
頭部だけではなく身体中にも細かい罅が入り、伸びる四股はダラリと垂れ下がっている。
人型はその機能を完全に停止させた。
「………」
あかゆはその動かない人型を見て、なぜか胸が締め付けられる。
………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
「な、なんだ!」
その時、部屋全体を大きな揺れが襲った。
足元からピシッ、ピシという嫌な音が聞こえる。地面が隆起する。
「う、うそだろ!」
あかゆがこれから何が起こるのか察した時には、もう既にあかゆの足元には床がなかった。
投稿者 lirim : 2005年04月19日 17:27