2005年04月19日
第一話-6-
二人は崖を降り、遺跡の周囲を囲む石壁に、人が通れる程の亀裂を見つけると
遺跡の敷地内へと入り、立ち並ぶ建造物から遺跡の内部へと入れる場所を探していた。
「………」
探索のため、周囲を観察しながらも、あかゆは違和感を感じていた。
遺跡は、あかゆの想像を完全に上回る規模だった。
遮蔽物の多い遺跡内からでは、その全貌を知ることはできないが、その大きさはプロンテラ城が
スッポリ入ってもお釣りがくるほどだ。
しかしそれ自体が問題なのではない。
なぜそれほどの遺跡が今の今まで発見されなかったかである。
これほどの規模の遺跡。掘り起こすだけでもかなりの手間だろう。
しかしまだ見てない部分もあるのだろうが、立ち並ぶ建造物を見た感じ
遺跡のほぼ全てが、完全に掘り起こされた状態に見える。
この規模の遺跡を、ここまで完全な状態まで掘り起こしたということは
かなり以前から、発掘作業に着工していたということだ。
しかし、この遺跡の噂が流れたのはごく最近のはずだ。
これほどまでに巨大な遺跡が、完全な状態まで掘り起こされるまで、誰の目にも触れなかった?
とてもじゃないが信じられない話である。
それに加えてここはプロンテラから目と鼻の先の場所である。
森の中であるとはいえ、道に迷った冒険者や、モンスターを倒すために森に入る冒険者もいるだろう。
手柄を独り占めにしたい冒険者もいるだろうが、未開の遺跡を誰に相談することもなく単独で突入する
冒険者なんてそうはいない。
儲かりそうな話と聞けば、どんな所にだって飛んでいく情報屋だっている。
完全に発掘作業が終わるまで偶然、誰に見かけられることもなく、噂にも上らないことなど
あり得るのだろうか?
ギーガに聞けば「あるんだし、あり得るんじゃないか?」という返答が返ってきそうだ。
地下に埋もれた巨大な遺跡が、ある日何の前触れもなく突然地上へと浮上するイメージが頭に浮かんだ。
「まさかな…」
妄想を振り払う。
「ん…」
言った直後、不思議な違和感を感じた。
『何の前触れもなく突然現れる』ごく最近、何処かで同じようなことを考えなかったか?
不思議な既視感を感じながら、頭を捻る。
「おーい、あかゆ。こっちきてみろー!」
遠くから自分を呼ぶ声で、あかゆの思考が途切れる。
見ればギーガが崩れた柱に片足を乗せ、コッチコッチと手招きしている。
あかゆが駆け寄ると、ギーガは目の前の建造物を指差した。
壁の一角には、四角く縁取られた穴が開いていた。
あかゆとギーガは頷きあうと、薄暗い遺跡へと足を踏み込んだ。
………
プロンテラの北で発見された遺跡は、かなりの規模であった。
広大な敷地に建てられた幾つかの建造物は、それぞれが違う遺跡ではなく
その全てが広大な地下遺跡へと繋がっている。
あかゆ達が入っていった建造物とは別の、しかし同じ場所へと誘う建造物の前に一人の女が立っていた。
いやそれは女のような端正な顔をした男だった。
豪華な刺繍が編みこまれたローブを着込んだ、その姿は魔術師。
魔術師は、落ち着かない様子で地面をつま先で叩き、苛立たしげに唇を噛む。
魔術師の周りでは、青い鎧を着た男達が、せわしなく動き回っている。
「スノウ様、この死体どうします?」
魔術師、スノウの前に青鎧の従者の一人が立ち、地面を指差す。
従者が指差す先には、血に塗れた、恐らくはもう動くことはないだろう一人の男が倒れていた。
それを見ると、スノウは嫌悪も哀れみの感情も見せずに
「そこらの茂みにでも転がしておけ」
とてもつまらなそうに、しかし苛立たしげに言う。
従者はスノウの前で敬礼すると、死体抱き上げ、離れていく。
それを見ながらスノウはフンと鼻を鳴らすと地面をつま先で叩き始める。
スノウから少し離れた位置で、重そうな箱を運びながら二人の従者が話をしていた。
「なんだかスノウ様かなり怒ってません?」
小さな箱を運ぶ従者が、大きな箱を運ぶ従者に言う。
「ああ、お前新入りか」
小さな箱を持つ従者が頷くと、大きな箱を持つ従者が続ける。
「知らないか?あの新しくチャンプエンブレムに昇格された…」
小さな箱の従者が「ロビン様ですか?」と言うと、大きな箱の従者は「そうそうれだ」と言った。
「で、そのロビン様が、スノウ様より先に任務を完了しちまってな…」
大箱の従者は肩を落とす。しかし小箱の従者は喰いつく。
「でもロビン様のこと嫌ってるのりゅ~じゅ様だけじゃないんですか?よく知らないですけど」
小箱従者が言うと、大箱従者はニヤリと笑った。
「それはあれだ。スノウ様はひろき様命だろ?先にひろき様直々の任務を完了されたのが悔しいんだろう」
大従者がクククと忍び笑う。小従者は困ったような顔をして苦笑した。
「それにここだけの話なんだが… なんかさっき町に出た時にスリにあったらしいぞ。
チャンプエンブレムのスノウ様がだぞ!」
「笑えるよな!」とかなんとか言いながら大者が大声で笑う。
小者はなぜか顔を真っ青にして大者の背後を指差す。口をパクパクとさせ、目を丸くする。
「どうしたんだ新入り?化け物でも見たみたいな顔し……」
「流石先輩だな。後輩に親切にするのは、とてもいいことだ。ワタシが直々に褒美をくれてやろう」
大は恐る恐る振り返ると、そこには振り上げた拳をプルプルと震わせ、顔を真っ赤にした化け物がいた。
「すすすすすすす、スノウさ…」
言い終える前に化け物の豪腕が振るわれる。そして大は星になった。
「よし!出発するぞ!目標を最下層にあるはずだ!」
大を星にしたことで一時的にスッキリしたらしい件の化け物は、軽やかな足取りで遺跡へと入っていく。
小は真面目に働くことを誓った。
投稿者 lirim : 2005年04月19日 17:26